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『明日ちゃんのセーラー服』OPテーマ「はじまりのセツナ」
作詞・作曲・編曲 杉山勝彦 × ディレクター 岡村 弦 特別インタビュー

2月23日より配信開始となる『明日ちゃんのセーラー服』オープニングテーマ「はじまりのセツナ」。CloverWorksが描く美麗なフィルムとともに、明日ちゃんの過ごす中学生活の一瞬を見事に表現した音楽もまた、大きな反響を呼んでいる。今回、オープニング楽曲を手掛けた杉山勝彦と、ディレクターを務める岡村弦にインタビューを実施。アニメの“はじまり”を彩る、オープニングテーマの制作にまつわるお話を聞いた。
プロフィール
杉山勝彦

杉山勝彦

1982年1月19日生まれ。埼玉県入間市出身。作詞・作曲・編曲家、ミュージシャン、音楽プロデューサー。
乃木坂46、中島美嘉、家入レオ、私立恵比寿中学など数多くのアーティストへ楽曲を提供。2016年、乃木坂46「サヨナラの意味」でミリオンセラーを記録し、2017年12月、作詞・作曲・共編曲を手掛けた家入レオ「ずっと、ふたりで」にて『第59回輝く!日本レコード大賞』で作曲賞を受賞。2018年にはTVアニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」エンディング主題歌を手がけている。2021年12月、乃木坂46「ごめんねFingers crossed」が第63回日本レコード大賞優秀作品賞を受賞。フォークデュオ「TANEBI」のギタリストとしても活動中。

岡村 弦

アニプレックス音楽ディレクター。
様々な作品のOP,ED曲やキャラソン、劇伴までを制作。
自らレコーディングエンジニアも兼任する。

  • ――『明日ちゃんのセーラー服』は元々ご存知だったのでしょうか?

    杉山勝彦さん(以下、杉山)

    楽曲制作のお話しをいただく前はまだ読んだことはなかったです。最初に劇中歌「hem」のお話をいただいて、そこから単行本を全部買って読ませていただきました。
  • ――原作漫画に触れて、どのような印象を受けましたか?

    杉山

    最初の印象は、すごく絵の綺麗な漫画だなと思って。なおかつフェティッシュなシーンも多くて驚きました。小路が唇を摘まむシーンとか、木崎さんが爪を切っているシーンとか、マニアックな方にも届く何かがあるように思えました。 学園ものといえば、いじめなどのトラブルが起きることを想像しますが、そういったものが本当になくて、すごく心が浄化される作品だなと思いました。
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  • ――確かに、アニメで「明日ちゃん」に初めて触れた方の中には、小路一人だけがセーラー服を着ている、という点からそうした想像をした方もいたかもしれません。

    杉山

    主人公である小路のすごく良いなと思った点は、クラスメートがやっていることを真似て同じ気持ちを味わおうとするところですね。
    例えば、爪を切っている子がいたら足の匂いをかいでみるとか、一生懸命なにかを観察している子がいたら一緒に観察してみるとか、その人の気持ちに寄り添う部分があって。クラスメートたちは色々と個性があるじゃないですか。それぞれお菓子作りとか昆虫とか、熱意を傾ける対象があって、そういったものを一緒になって興味を持ってくれる明日ちゃんがいて。明日ちゃんみたいな人がいるといいのにな、という感情になる人がいっぱいいそうだな、と思いました。クラスメートの誰かには感情移入できるんだろうな、と読みながら思いましたね。
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    岡村 弦さん(以下、岡村)

    私も杉山さんと同じような気持ちになりましたね。あと、もうやっぱり、今は毎週土曜の夜に心の浄化をされている感じですね。

    杉山

    わかります、めっちゃわかります(笑)
  • ――『明日ちゃんのセーラー服』を実際に読んで、原作のどの要素に注目して、曲を作っていったのでしょうか?

    杉山

    原作のストーリーや世界観から影響を受ける部分はありつつ、そればかり考えて寄せすぎると、音楽がハッとする感じにならないことが多い、という感覚を持っていて、一気読みをして世界観を感じた後は、割と自分が思うように作らせてもらいました。
    かつて、どの要素があれば「青春」の歌になるんだろう、っていうのを研究してみたことがあって、統計的に青春の名曲になっている歌を調べてみたんです。その中で譲れないポイントが二つだけあって、「時間に制限がある(すぐ終わっちゃうかもしれない)」というのと「未だ知らないという状態」という2点なんですよね。それをどうしても落とし込みたい、というのがまずありました。
    彼女たちでいえば、友達になっていく瞬間が一つ一つのポイントだと感じていて。クラスメートがまだお互い何も知らない状態の中で、小路がみんなの名前を一生懸命覚えてフルネームで話しかけたり、相手から名前で呼ぶねと言われた瞬間があったりして、ただのクラスメートから友達っていうカテゴリに変わる瞬間があって、その瞬間の感動をどういう表現で書こうか、と思っていました。
  • ――サビの頭の歌詞「時間が止まれば 良いのになって思うよ」「まだ何も知らない同士なのに」からダイレクトに伝わってくる気がします。

    杉山

    その一瞬の感動はすぐに終わっちゃって、それからは段々日常の風景になってくるものだと思うので、ハイライトは意外と親友になる瞬間なのかなと。その瞬間は10年経っても覚えていても、それ以降は人によって覚えているポイントがそれぞれ異なると思っていて。
    始まりのその一瞬をテーマに曲を描きたいな、と思って「はじまりのセツナ」というタイトルもつけました。
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    岡村

    そういうことだったのか、と思いながら今話を聞いています(笑)

    杉山

    普段、こういった作品では、言葉の温度感などを詰める作業をすることが多いんですけど、今回は2番のサビ頭くらいでしたよね。

    岡村

    そうですね、「大人になりたい」の部分ですね。

    杉山

    元々の歌詞は「大人になりたい なりたくないで 揺れる」と書いていたんですが、「この子は、基本的に大人になりたいと思っている子なので」というディレクションがあったので、書き直して、最終的に「大人になりたい 背伸びする度 揺れる」という歌詞になりました。

    岡村

    でも、そこくらいですよね。

    杉山

    そうですね。劇中歌も先にやらせてもらい、世界観や空気感がわかっていたので、割とスムーズにいったかなと思います。

    岡村

    杉山さんの世界観や十八番の曲調で作ってもらえれば、歌詞の世界観やジャンル的にもまず間違いないと思っていました。だから、基本的にはお任せして、「はい、その通りです」みたいなところもありましたね。

    杉山

    サウンドは、岡村さんが生き物にしてくださったところも大きく、ドラムなどは、最初は打ち込みでいいと思っていたんですよ。オケやギターもそのまま本番用として使えるように、かなり丁寧に弾いていたんですけど、岡村さんから「今回は全部生で行きましょう」という話がありまして。生演奏の微妙なリズムの揺らぎの中で、16人の歌をいい感じに仕上げるのは地獄の作業だとわかっていたんですけど、明日ちゃんの世界観として、人間的・ナチュラルなところに、しっかりと落とし込んでくださいました。本当に妥協することなく、そうしたことをやってくださったことで、アニメを視聴してくれた方からのOPテーマに対しての今の反響があるんだろうなと思っています。

    岡村

    打ち込みでももちろん成立するんですけど、今回は作品の質感など含めて、人間的な感じや優しさみたいな部分を出すために、生演奏がいいんじゃないかと思って、挑戦させていただきました。

    杉山

    レコーディングしているときにも、普段別々にリモートでお願いしたりしていた演奏者の皆さんにスタジオに集まってもらって、それぞれのいいものを出し合って面白いものを作ろう、っていう空気感があって楽しかったですね。
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  • ――ノンクレジットOPアニメーションは第三話の放送に合わせてYouTubeで公開されて、既に60万回超も再生されており、作品・楽曲共に注目度は非常に高いです。曲とアニメーションが合わさったとき、どのような印象を受けましたか?

    杉山

    素敵だなと思ったのは、最後に明日ちゃんが走っているシーンですね。繋いでいる手がだれかわからないというところに、あ、こんなところにも平等主義が、となんて優しい世界観なんだと思いました。
    それまでに、クラスメート1人1人のキャラクターが伺えるようなシーンが出てきて、最後のサビで疾走感が出ている場面で、誰と一緒に走っているのかわからないエモさに果てしない愛を感じました。

    あと、PV第2弾では第一話の映像に合わせてOP曲が流れて、すごく綺麗なはめ方をしていただいたなと感じました。あの曲をアニメファンの方が好きになってくれたきっかけの一つだと思っています。
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  • ――いよいよ、フルバージョンの楽曲が配信開始されるという事で、特にここに注目して聴いてほしい、という部分はありますでしょうか?

    杉山

    曲全体を通して、明日ちゃんの世界観や、青春の心のざわめきみたいなものが伝わればいいなと思います。1つ1つのパート演奏者や岡村さんのディレクション、ミックスダウン含めて全てがそこに向かっているので、曲を繰り返しリピートしていただいて感じ取っていただけたら嬉しいなと思っています。
  • 岡村

    そうですね、あとは、最終話では特別にオープニングの2番を流してもらえることになったので、それも嬉しく思います。

    杉山

    最近そういうことをするアニメって珍しいですし、すごいですよね。

    岡村

    いいアニメです(笑)! あと、オープニングが最終話で流れるということは、オープニング曲がすごく良かったから、ということでもあると思いますし。元から予定されていたわけではなく、楽曲完成後に、「はじまりのセツナで終わりたい」と正式にオファーを頂いて決まりました。

    杉山

    めっちゃ嬉しいです。

    岡村

    監督さん含めアニメ制作側から、オープニング曲がすごくいい、という反響があったからこそだと思うので嬉しいですね。想定していた訳ではありませんが、エンディングに2番が使われることで、アウトロが活きて最終話だぞ、という感じも出せて、すごくよかったな、と思いました。
  • ――ありがとうございます。最後に、オープニングテーマを楽しみにしてくれていた皆さまへ一言コメントをお願いします。

    杉山

    僕も含めて、まだフルで聞けないのか、という気持ちだったと思うんですけど(笑)焦らしに焦らされていると思うので、その思いの丈をぜひ耳にぶつけていただいて、楽しんでいただければと思います。フルで聴いて馴染んでくると、より一層明日ちゃんの世界観やこれからのお話を楽しめると思いますし、やっぱりアニメあっての主題歌だと思うので、アニメを最後の最後まで楽しんでいただいて、Blu-ray&DVDやCDも手にしてもらえればと思います。
  • ――ありがとうございました。
  • 配信情報

    オープニングテーマ

    「はじまりのセツナ」
    歌:蠟梅学園中等部1年3組
    作詞・作曲・編曲:杉山勝彦
  • Blu-ray&DVD第1巻

    Blu-ray&DVD第1巻完全生産限定版には
    オープニングテーマ「はじまりのセツナ」歌:蠟梅学園中等部1年3組
    (Fullサイズ/instrumental/TVサイズ)が収録された特典CDが同梱!